入れ歯や差し歯、矯正装置、インプラントなど歯科技工物の製造・販売を行う「和田精密歯研」(本社・大阪市東淀川区)のCAD/CAMセンターで、CADオペレーターとして働く歯科技工士の三枝磨実さん(22)。

歯科技工士の仕事といえば、手作業のイメージが強いが、三枝さんの視線の先にあるのは、コンピューター。患者の口腔(こうこう)内をイメージした歯科補綴(ほてつ)物の設計画面が映し出されている。歯科用タービンハンドピース

歯科用CAD/CAMは、従来手作業で行われていた歯科治療に用いる被覆冠やブリッジ、インプラントなど補綴物の設計や加工の一部をコンピューターに置き換える一連のシステム。同社ではCADオペレーターが設計した三次元データを3Dプリンターで造形したり、大小さまざまな加工機で切削したりすることで作業を効率化、納期の短縮も図っている。

「仕事の大半はコンピューターの前に座っての作業。1日に40~50本ぐらいは歯の設計をしています」と話す口調に、入社3年目の自信がのぞく。

そんな三枝さんが歯科技工士を志したのは、家の近くに新大阪歯科技工専門学校があったことから。「劇的な話は何もなくて…」。専門学校では、歯科の基礎知識に加え歯のデッサン、彫刻などの実習を2年間みっちりと学んだ。

CAD/CAMに触れたのは、同社に入社してから。当初は戸惑いもあったが、すぐに最先端の技術に魅せられた。

「臨床では、学校で習っていないことばかり。患者さんは1人として同じ歯の形態の人はいません。だから、上顎のフルの入れ歯を設計し、それがうまく装着されたと聞いたときはうれしかったです」

CAD/CAMを利用すれば、医師から届けられたデータを元に復元した患者の歯の形態を、パソコン上で上下左右をはじめあらゆる角度に回転させて見ることができ、かみ合わせや欠損した隣の歯との接触面も正確に認識できる。

しかし、コンピューターはあくまでも設計のための支援機器。患者の食べやすさと審美性を兼ね備えた歯を設計するには、オペレーターの経験や感性に寄るところが大きく、3Dプリターや加工機で製造した歯の高さやバランスなどを最終調整するのも手作業だ。

最も気をつけているのは、清潔であることと整理整頓。ネジ1つでもなくなれば、人工臓器としての役目を果たせない。「わたしたちが作っているのは、患者さんが口の中にいれる人工臓器。そのことを念頭に置いて仕事をしています」と力を込める。

目標は、臨床経験が豊富で信頼が厚く、技術・知識ともに優れた歯科技工士を「スーパーテクニシャン」として認定する社内制度への挑戦。「上司がスーパーテクニシャンで、すごく教えてもらっています。まだまだ勉強と経験が必要ですが、いつか必ず!」と目を輝かせる。

そんな三枝さんの癒やしタイムは、共に暮らす文鳥のシロとインコのキーちゃんと遊ぶ時間。「かわいんです」と目尻を下げた。

歯科技工士になるには 歯科技工士は、国家資格。高校卒業以上を入学資格とする歯科技工士教育機関(専門学校、短大、大学)を卒業、歯科技工士国家試験に合格することが必要。合格証書と免許申請を歯科医療振興財団(東京都千代田区)に届け出、歯科技工士名簿に登録し、歯科技工士免許を取得できる。就職先は歯科医院、歯科技工所、歯科材料関連企業など。