ストレスがかかると免疫機能が低下することは知られているが、その影響は意外な部分に現れることがある。その代表的な例が「口の中」だ。歯茎が赤くはれたり出血したりする歯肉炎も、ストレス反応の一種として現れることがあるというのだが…。

Iさん(34)はその朝、歯をみがいていて異変に気付いた。口をすすいで吐き出した水が、血でピンク色に染まっていたのだ。あわてて鏡に向かって「イーッ」とやると、みがいたばかりの前歯が血に染まっていた。

数日間、様子を見たが歯茎の出血とはれが引かないので、かかりつけの歯科医院を受診。はれて、じゃなかった、晴れて「歯肉炎」の診断が下された。口腔内カメラ

しかし、Iさんは納得がいかない。ちゃんと朝晩歯をみがいているし、半年に1度は歯科検診にも行っている。永久歯になってからは虫歯もなければ歯周病を指摘されたこともない。なぜ突如歯肉炎に襲われたのか-。

「ストレスかもしれません」と指摘するのは、東京都目黒区にある新井デンタルクリニックの新井誠二院長。精神的な抑圧が歯肉炎を引き起こすことは珍しいことではないという。

「口の中には数多くの雑菌がすみついているけれど、普段は免疫機能の働きで、感染したり症状を引き起こしたりすることはありません。ところがストレスがかかると免疫力が低下する。それによって口の中の粘膜の防御機能が落ちてしまい、感染、発症することがあるのです」

たしかにIさん、この数カ月、奥さんとの関係が悪化しており、離婚を視野に入れた話し合いが続いている。ストレスは最高潮なのだ。

「ストレスがかかると食生活も乱れるので、栄養不足も加わって歯肉炎を引き起こしやすい環境ができやすい」と新井院長。Iさんの歯肉炎は、起きるべくして起きた症状だったのだ。

細かな血が飛び散った洗面台を、奥さんは「気持ち悪い…」と言って掃除もしてくれない。もはやこの夫婦に未来はなさそうだ。

Iさんが取るべき道は、夫婦仲を改善することではなく、自分の免疫力を復活させることだと思うのだが…。