一番奥の歯がずきずきする……親知らずがうずいている、抜かなくてはならないのでは! でも、抜歯のシーンを想像しただけで頭がクラクラします。一体、親知らずを抜く、抜かないはどのようにして判断すればいいのでしょうか。

歯学博士で口腔(こうくう)衛生・口腔外科が専門の江上歯科院長・江上一郎先生に、お話を伺いました。
■大人になって生えるから「親知らず」と呼ぶ

――親知らずとは、一番奥に生えてくる歯のことですよね?

江上先生 そうです。人間の歯は、上下に左右7本ずつ、合計28本生えるのですが、思春期以降に、一番奥に1本ずつ、「8番目の歯」が生えてきます。これが「親知らず」と呼ばれる歯です。

「親知らず」と呼ばれるのは、だいたい、15歳~25歳ぐらいの間に生えるので、親が、その歯を見ることがないからでしょう。

――「親知らずは抜いたほうがいい」とよく言われますが、本当ですか?

江上先生 親知らずといえども、普通の歯のようにまっすぐきちんと生えていて、虫歯や歯ぐきのトラブルがなければ抜く必要はありません。8番目の歯としての役割を果たしてくれるとありがたい存在になりますね。

ただ、そのように正常に生える親知らずは少なく、虫歯になったりと口腔(こうくう)内外にいろいろなトラブルを引き起こすほうが多いのです。どんなトラブルにしろ、放っておくと悪化するばかりですから、後々のことを考えて抜いたほうがよいでしょう。歯科用エアーコンプレッサー

■親知らずとほかの歯がおしくらまんじゅうをする

――親知らずにはどんなトラブルが多いのでしょうか。

江上先生 一番多いのは、親知らずが虫歯になることです。隣の歯と接触する部分から虫歯が広がることはよくあります。

次によくあるのは、親知らずが歯ぐきにすっぽり埋まっている、歯ぐきから少しだけ頭を出しているなどが原因で、歯ぐきが炎症を起こすことです。いずれもずきずき痛む、歯の周囲が腫れるなどの症状があります。

また、親知らずは一番あごに近い場所にあるので、あごに負担がかかって肩こりや頭痛、顎(がく)関節症の症状が出ることもあります。

――治療では治らないのでしょうか。

江上先生 単純に虫歯だけの場合は治療できます。しかし、トラブルを起こすのはたいてい、生え方がゆがんでいるからか、歯ぐきのなかに埋もれているからです。それらの場合は治療や投薬で一時的には痛みがとれても、再び同じトラブルを起こす可能性は非常に高いんです。

それを避けるために、最初にトラブルがあったときに抜いたほうが賢明だと判断します。いずれにしろ、医師は必ずレントゲンを撮って患者さんに写真を見ていただきながら説明をしますから、自分の親知らずがどういう状態なのか、よく確認し、相談をしてください。

■口腔(こうくう)外科の医師を探そう

――どこの歯医者さんでも抜いてくれるのでしょうか。

江上先生 歯の生え方によっては、外科手術の分野になるため、大学病院や総合病院を紹介されることになるでしょう。特に、下の親知らずは歯ぐきのなかに陥没している、横向きに生えているなどで、歯ぐきを切開しなくてはならないことが非常に多くあります。

口腔外科(こうくうげか)の医師、出身の医師は、親知らずの抜歯経験が多いと考えられますので、ウェブサイトなどで探してください。

――親知らずを抜くときの注意事項はありますか。

江上先生 抜歯は、口の中の外科手術になるわけです。下の歯の場合、麻酔をしてから抜けるまで、約30分~1時間ほどを要します。出血もありますし、あごをはじめ、体への負担も大きくなります。

それに、「痛いのではないか」という精神的ストレスもあるでしょう。

また、抜歯後、麻酔が効いている間に食事をすると歯ぐきや口の周囲、頬の内側をかみ切ってしまうことがありますから、麻酔の効果が消えるまで食事はできません。

ですから、抜歯の日は、空腹や睡眠不足、風邪をひくなど体調不良にならないようにすることが大切です。

あと、出血が伴うので、当日はお酒を飲む、入浴をする、運動をするなど、血行を促すような行為は禁止になります。手術ですから、当日は安静にして早く口腔(こうくう。口の中)の健康を回復させるように心がけましょう。

――親知らずを抜くにあたっての治療費はいくらぐらいになりますか。

江上先生 上の歯など、簡単なケースは健康保険3割負担で約2,000円、下の歯など難しいケースは5,000円前後です。

これとは別に、初診料や再診料、レントゲン写真料、投薬料などが必要です。

――よく分かりました。ありがとうございました。

親知らず、あなどるなかれ、異変に気付いたらすぐに歯科医を探して体調を整えるようにしましょう。