舌のコケ=舌苔(ぜったい)は口臭のモトになると言われ、取り除くグッズも多数販売されています。が、「舌は味覚を感知し、舌苔は体調のバロメーターでもあります。むやみに除いてはいけません」と話すのは、歯学博士で口腔衛生外科専門、口臭治療の江上歯科(大阪市北区)の江上一郎院長。詳しいお話を伺いました。
■舌苔がたまる原因は、だ液の分泌が弱まっているから
――まず、舌のコケは何のためにあるのか、役割を教えてください。
江上先生 ほおの内側の粘膜はつるっとしているでしょう。それに比べて舌はざらざらで、表面には小さな突起、味蕾(みらい)があります。これは舌の表面積を広げて味覚を感じるための機能です。舌を守る役割もあります。この突起を広げると、一人の舌でだいたい畳10帖分の広さがあると言われています。
――舌が汚れているように思うことがありますが、原因は何でしょうか。
江上先生 舌の突起の間に、食べ物のカスや粘膜の表皮のカスが残ることがあるからです。
――カスですか。するとやはり、口臭のもとになるのでしょうか。
江上先生 舌苔がひどくなると、口臭のもとになることはあります。しかし、口臭の原因が舌苔だけにあると考えるのは早合点です。
というのも、口腔内が健康な状態であれば、舌苔は突起の表面や谷間に少しだけ付着しているものです。過剰なコケはだ液で自然に取り除かれています。
色素が強い食べ物や飲み物を口にすると、舌の表面に色が一時的に付着することがあります。例えばカレーを食べたとき、牛乳やコーラを飲んだときなどですが、それもすぐにだ液で流されます。
――舌苔がひどいとは、どういう状態でしょうか。
江上先生 風邪をひいた、睡眠不足だ、疲れている、ストレスや緊張感が高いときなどに、舌苔はたまりやすくなります。体調不良で舌の表面が炎症を起こして荒れた状態になる、発熱などでだ液の分泌が弱まっているからだと考えられます。
また、内臓に疾患があるときにも舌苔がたまり、白、黄色、灰黒色に変色することがあります。これは病気のサインです。内科の医師は、まず舌を診断しますが、舌はそれだけ体調の変化を示すバロメーターだと思ってください。
――口臭ケアだと思って、舌苔を専用ブラシで磨いているのですが、必要はないのでしょうか。
江上先生 健康な場合、舌苔を取り除く必要はありません。タオルでこする、ブラシで磨くなどすると舌に傷がつき、生理的にあるべきコケまで取り除いてしまいます。口腔内の清浄作用や味覚を損ねることがあります。(家庭用蒸留水器)
また、ブラシで磨いて舌がまだらになるケガもよくあります。痛みが出ると食事がしにくくなってつらいですよ。
――朝起きたとき、口の中が気持ち悪くて口臭がするように感じます。それも舌苔が原因ではないのでしょうか。
江上先生 就寝中はだ液の量が減るのが原因です。それで舌苔が洗浄されずに増している状態です。
起床時は口の中がねちゃねちゃして、息を吐くと通常時よりは臭うでしょう。口の中のバクテリアや歯周ポケットからの浸出液などが混じってやや臭いますが、これは口臭と言うよりは自然な生体反応です。人は生物ですから、無臭はありえません。
――舌苔を掃除したいときはどうすればいいのでしょうか。
江上先生 口の上部に舌を軽くこすり付けるようにして、自分のだ液で流すようにしてください。口をつむってあごや舌を左右に動かすとだ液も出やすくなります。
どうしても舌苔を取り除きたい場合は、専用のブラシで舌の奥から先に向かって、一方向に1~2回だけ、そっと優しくなでてください。ブラシを往復させると、舌の突起を傷付けるので避けましょう。
――舌苔がたまる原因や正しい対処法が分かりました。ありがとうございました。
舌苔が増えるのは、疲労時やストレスがあるときのだ液不足が原因だということです。舌苔に気付いたら、「まずはよく寝て体調を整え、だ液を意識してください」と江上先生。舌をブラシでごしごし磨くのは禁物、だ液にこそ注意をはらうようにしましょう。(根管長測定器)